SHERLOCK

DlifeというBSの無料チャンネルで、BBCドラマの人気作「SHERLOCK」が放送されることになった。初回放送は2010年(日本では2011年から)の作品なので今更ではあるが、Dlifeのいいところは、吹き替え版と字幕版と両方放送してくれる点である。カンバーバッチのマシンガントークは是非英語で聴きたいのだが、吹き替え版では英語放送に切り替えて、文字放送を字幕代わりに利用する羽目になる。すると画面が見えづらい。おまけに文字放送は、どこの局でも、半角と全角が入り混じっていて非常に見づらいし、見た目が汚い。イライラする!だが、字幕版は小さい字で画面の隅にでるし、字の大きさもそろっていて汚らしさがない。おまけにDlifeの字幕放送のいい点は、シャーロックが打ったメールの文字も英語で表示してくれるところだ。ありがたい!

というわけで、何度も見た「SHERLOCK」を、また見ることになった。途中でCMが入るのが鬱陶しいのだが、それでも字幕放送のありがたさの方が勝る。本当にありがとうDlife。The Big Bang Theoryも字幕版で放送してくれていて、足を向けて眠れない。生まれ変わったらDlifeに就職して滅私奉公したいと思う。なんつって。うそ。うそというのは、生まれ変わりなんかないからである。きっぱり。

物語のパターンというのはもう出尽くしていて、今更新しいオリジナルなんてないとすら言われている。ホームズ&ワトソンというバディ物は、確かに、もうホームズとワトソンでしかない。The Big Bang Theory のシェルドンとレナードもフラットシェアをしていて、細くて背が高く天才で奇人で人付き合いが好きじゃないシェルドンと、ずんぐりむっくりで人が良く、でもやっぱり頭はいいレナードはホームズ&ワトソンを踏襲していると言えよう。時にバディは女性であったりするのだが、相方がいるというのは大事なことなんだろう。トミーとマツとか?ちがうか。ダウンタウンも仲良く解散しないでやっているのはバディだからか?そうか、松ちゃんがホームズなのか?

BBCの「SHERLOCK」は途中でBL臭くなってきて、鬱陶しくなってきて、シーズン4で終了にしてくれてよかったと思う。あの話でなんでBL臭くなるのかわからんが、かぎつける腐女子が世界的に増えすぎたと思われる。それにシーズン4はもう、原作を逸脱しすぎていて、別の世界の別の話になりすぎだ。妹なんかそもそもいないし。マイクロフトがヘンな人として出てきてひっかきまわすのは良いとしても、原作にいない妹まで出すようでは末期症状。SHERLOCKの名を使うのであれば、設定は守ってもらわないと。

また、史上最強の極悪人のはずの悪役モリアーティがしょぼかったのも残念だ。この手の悪人は非情でありながらどこか人好きのする人たらしか、あるいはまったくそのような点のないクソ以下の人でなしであるか、どっちかだろう。中途半端なとっつぁん坊やみたいなのを出されてもね。BONESというアメリカのドラマでも、極悪非道で天才のぺランというのが天才(且つ変人)女主人公テンペラスのライバルとして登場したけども、しょぼくてダサくてたいしたことがなくて早々に退場になっていた。このぺラン、初登場だけ華々しく期待が持てる感じだったが、段々尻すぼみで、見た目も悪いダメダメ君。おまけに、「フォスター家の人々」というアメリカのドラマで、福祉課の職員の役で、たった二言程度をしゃべる役でも出ていて、その、所謂「地方公務員の安月給の冴えない福祉課のオッサン。ただマニュアル通りのことだけをしている脳無しの公務員」という役と同じ顔で、同じトーンで登場なのだから、稀代の天才犯罪者も泣くわ。もうちょっと役作りしろよーと思うほど、見た目からして冴えないダサ男。ばっちり二重瞼の、ほっぺがぷっくりした腹話術の人形みたいな顔で、主人公に立ちはだかる最大のライバル!悪の天才!って、そりゃないわ。あまりのしょぼさに、某掲示板では「ペラ公」とバカにされていて、本当にその通りのぺらぺらの輩であった。そのペラ公に似ているのが、「SHERLOCK」に出てくるモリアーティ役の人なのだから、何をかいわんや。

もっとも、大変態で大変人のシャーロックにぴったりはまってしまったカンバーバッチのうまさが引き起こした災難ともいえる。あの役のカンバーバッチは神がかっており、モリアーティが全く魅力的な悪役となっていなかった。かわいそうだけど、彼には荷が重すぎたようだ。ワトソン役のマーティン・フリーマンさんも、マイクロフト役のマーク・ゲイティスさんもぴったりハマっていてよかったが、それ以上にカリスマ性や神秘性、あるいは性的に魅力的などの特出した魅力がないとダメなのが悪役モリアーティである。腹話術の人形が出てきてもダメだ。見た目もびしっと、ハンサムでなくてもいいから、ヘンな顔だけどセクシーとか、気持ち悪いけどある意味ハンサムとか、そういうのでないと。あるいはよぼよぼのキチガイ爺さんでもいいかも。とにかくいい意味でキャラが立っていないとね。一応、狂気ですよーというような変な顔を作っていたけど、それは短絡的であろう。とにかくモリアーティの魅力がなさ過ぎて、このドラマがBL臭を醸す羽目になったような気もする。もっとモリアーティが盛り上げてくれていたら、モリアーティが死んでも復活を願う人の声が大きすぎて・・・という展開になっていたら、シリーズはもっと続いたかもしれない(続くことが良いことだとは言い切れないが)。モリアーティにそこまでの力がなかったのは不幸かもしれないが、その不幸の源は、ハマりすぎたカンバーバッチなのだから皮肉なものである。

小説ならいくらでも頭の中で魅力的な悪魔を描き出せるが、ドラマや映画ではダイレクトにその姿、顔かたちを見てしまうので表現が難しい。敵役を上手に作れないといけないので、小説の映像化というのは大変だ。その点、「The Elementary」では、ホームズ&ワトソンを、イギリスの変人変態&中華系アメリカ人の女性にしたのはグッドアイデアだし、宿敵モリアーティも女性で、早々に解決してストーリーからモリアーティを排除したのはうまいと思った。だから話が続くのかなと思うが、実はシリーズ3までしか見ていないので、その後モリアーティが出てくるかもしれないからわたしの読みはハズレかもしれないのだが。何しろお金を出さないで見るので、無料放送分しか見ていないから情報が古くて。とにかく、宿敵モリアーティを出さないとシャーロック・ホームズにならないから出すけども、さっさと片付けたほうが得策なのは本当だ。何しろすごい宿敵なんていうものは、長く続くドラマでは邪魔なのだ。特に主人公自体に魅力があって個性がある場合、そんなものに頼る必要がなくなるからだ。原作のホームズも、滝で殺してあとはおしまいだ。余計な手間ばかりかかる割に活躍しづらい敵役なんぞ、魅力的な主人公の前に必要はないということだよ。いつまでもレッド・ジョンを引っ張っていると、それに足を取られて奈落に落ちるってことよ。さっさと解決したほうが得策。

カンバーバッチのハンサムと言われているが微妙に変な顔は、変態変人ホームズにマッチし、繊細な指や体つき、不安になるような薄い青い目はぞわっとしていい。彼の気持ち悪さが存分に生かされている。フロド的ワトソンもかわいくていい。惚れっぽくて、わきが甘いところも。マイクロフトの変態性も見た目から醸し出されているし、本当にキャスティングがうまかった。つくづく残念なのはモリアーティである。ドラマや映画はキャスティングが命だ。あとは脚本家がどこまで面白い話にして、どこまで作品の全体を理解して、キャラクター各人を理解しているかだ。「SHERLOCK」はモリアーティのキャスティングに失敗した。あれなら、本当に、枯れ枝みたいなよぼよぼのお爺ちゃんを出してきた方がよかったと思う。イギリスの爺さんはスルメイカみたいなもので、なかなか味のある変態ジジイの宝庫だ。エジンバラ公だって、あんなクソジジイで困った人なのに(交通事故は起こすし、人種差別発言はしまくるし)、味のある悪いジジイで魅力的じゃないか。あんな感じで爺さんを出してきたら、もっと面白くなったのではないかと残念に思う。

ケチをつけつつも、楽しく拝聴いたします。ありがたや、ありがたや。南無南無。