ゲゲゲ

わたしは米津玄師は河童の国の王子様ではなかろうかと思っている。

わたしが若いお嬢さんだったころ、髪の毛が腰まで届くほど長かったことがあった。真っすぐでサラサラのきれいな髪の毛だったが(髪の毛だけはきれいだった。髪の毛だけは!)、特に思い入れはなかった。それである日、急に「切ってしまえ」と思って、顎のラインでバッサリ切ってもらった。すっきりワンレンボブのショートにして会社に行ったら、同じ部署の歳のいったちょっと怖いお姉さん社員に、「キタちゃん」というあだ名をつけられた。短くなったその髪型から、そう命名されたのである。

「お前はセンだよ!」と湯婆婆に言われた千尋のように、わたしは「あんた今日からキタちゃんね」と言われて、何の文句もなく素直にキタちゃんと呼ばれたら返事をしていたら、よその部署の人が不思議がった。名前にも苗字にもキタが入っていないのに、なぜキタちゃんなの?と。

「あー、なんかね、髪の毛切ったらゲゲゲの鬼太郎みたいだからだってー。だから鬼太郎のキタちゃん」と本当の由来を答えたところ、相手に絶句されてしまった。挙句、「そんなひどいあだ名をつけられてかわいそう。人事部に相談した方がいいよ」なんて言われた。

・・・え?鬼太郎って悪口なの!?

そう、わたしは素敵なお名前いただきまして~と思っていたのに、世間様はそうは思っていなかったらしいのである。あら、いやだ。

わたしはだいたい若いころは嫌味とか当てこすりがまったくわからず、素直に受け取って「いやあ、恐縮です」と照れていたりするぐらいおめでたいアホだったので、鬼太郎さんから命名されたなんてステキじゃなくて?鬼太郎さんかっこいいし~ぐらいにしか思っていなかった。ねずみ男とか砂かけババアというあだ名ならディスられているとすぐわかるけど、鬼太郎は褒めてない?と本気で思っていたので、それが世間一般にちょっと小バカにしたあだ名だとは思っていなかった。ふふふふふふふ、わたし、しっかりして。他にも嫌味を言われているのに、「あらやだ、おほほ、そうかしら?」と真に受けたこと、山のようにある。数年後に、「は!!!あれは、イヤミだった!うおおおお」と気づくこと、ある。めっちゃある。周りの人に「あんな嫌味、気にしなくていいからね」と同情されて、「あれは嫌味か。マジか。褒められたと思ったわ」と気づくことも多々。ちょっと脳の発達に問題があるようだ。さすがに今はおばさんになったのでそこまでおめでたくないが、それでもおめでたい傾向は人より強いと思う。嫌味、通じないというか、気づかない・・・。ある意味幸せよ。

数名の女性社員から「そのあだ名は意地悪だ」と言われて少し考えてしまったが、「ま、いいじゃないの?鬼太郎さん、好きだし!」ということでわたしはその後もずーっとキタちゃんと呼ばれ続けていた。今でも、「鬼太郎さんは哲学的ですしねえ、悪くないと思うんですけどねえ」と思っている。うーん、ほんとにあれ、誉めてなかったの?

というわけで、河童の国の王子様というのは誉め言葉なんで、ほんとに。