空に種をまく

少し前の話だが、テレビのインタビューで米津玄師さんが、「パプリカ花が咲いたら晴れた空に種をまこう」という歌詞はおかしいのではないか?種をまいたら花が咲くのではないか?とツッコミを入れられていた。それに対して、「花が咲いてから種をまいたっていいじゃないですか」と笑ってきっぱり答えていた。

それを見て、うらやましくなった。

きっぱり言えることが。

わたしが12歳ぐらいの頃だけども、図画工作か美術の授業で、何かの啓蒙ポスターみたいなものを描かされた。わたしは画用紙に大きめの太陽を描いた。太陽の絵をかくと、赤とかオレンジの太陽から、放射線状に太陽光線?なのか、フレアなのか、線を描くと思うのだけど、それがなんか、普通過ぎて嫌だなと思って、太陽光線なのかフレアなのか自分でも意識はあまりないけど、その線を線でなく、しずくの形で描いた。他にも何かを描いたと思うのだけど、とりあえず完成させて先生に提出したところ、「なにこれ。なんで太陽からしずくなの?おかしいでしょうが」と怒られた。

怒るつもりではなかったのかもしれないけど、口調や雰囲気からまるで怒られているかのように、「こんな常識のない変なもん描いて!」と叱責を受けているように感じられた。確かに、たいした思想信条もなく、哲学もなく、デザインとも何とも意識はなく、太陽から線が出ていたら☀←これ、この線、普通過ぎるからなあと思ってその線をしずくの形にしただけなのだけど。でもダメなの?線じゃないと死刑なの?というか、そもそも線、見えてないよね?ないのに描いていいの?それをしずく状にデザインすると非行行為なの?何がそんなにいけませんの?

「うーん」と言ったまま黙り込んだわたしに、イラっとした先生が別にどうでもいいけどねと絵を受け取ってくれて終わったのだけど、何も言えない自分が一番ダサいので今でもよく覚えている。あの何も言えないダサい感じがわたしだなあ、と。今も綿々と続くダメなわたしを象徴している、と。

「線じゃ普通過ぎてつまらない」と何故言えなかったんだろう。

わたしは自分の意見はとりあえず言わない。言えば何を言われるかわからない。バカにされるし、笑われて、何だったらその後数年に渡ってネタにされて、バカにするときの象徴的なアイテムにされる。みんなが言ったことで自分でもそれほどいやじゃない意見に乗っかればいいと思って過ごしてきたので、「花が咲いてから種まいたっていいでしょう」と言えるのはとてもうらやましい。同じ質問をわたしがされたなら、あわあわして、なんかわけのわからないことをもにょもにょ言って、笑ってごまかすんだろうなあと思って見ていた。

「やっぱ売れている人はすごい。堂々と言える。これが売れていないミュージシャンならどうだったんだろう」なんて意地悪なことも思ったりもするけど。そして、売れていないミュージシャンが言ったなら、みんなは、そしてわたしは、どう感じたんだろう、とも。