私は痩せているけど大食いで、白いご飯も大好きでーって、お前の好みなんか知らんわっつーの。

ランチに定食屋さんで、女性の自分だけご飯の盛りが少なかった話が、ちょっとだけネットニュースでにぎわっていた。女性はご飯を残す人が多いので、お店側が少なめに盛っているのだろうけど、差別だとか、同じ金額だとすると法的問題がとかなどと言っている人が多く、くだらないなーとしか言いようがない。多めに盛ってくれというのが女性は恥ずかしいのにと恨み言を言う輩もいたが、だったら多めに食うのも恥ずかしいから食うなと思うし、なんかもう、世の中、文句を言ったもの勝ちなんだなあと殺伐とした気持ちになる。初めて行った店のローカルルールがわからなくてまごつくのはよくある話で、次回その店に行ったら、オーダーの時に「私のご飯は男性と同じ盛りにしてください」と言えばいいだけ。たった一回ご飯が少なかったぐらいで、今どき戦時中じゃあるまいし、そこまで騒ぐような話なの?安いランチでグランメゾンレベルのサービスを求める人は、どういうお育ちなのだろうか。白いご飯を盆と正月にしか食べたことがないお家の子なのかと思ってしまう発言に、SNSでは饒舌だけど、お店の人にご飯多めという口はないなんて都合のいいお口でございますわねえと、微笑ましさにほほ緩む今日この頃。

兎角ヒトは我儘である。

ちょっと前の話だけど、会社の近所の有名なとんかつ屋さんにランチで行った。一人だからカウンターに通されて、お店の人が厨房の方に向かって何か言うと、ご飯とお味噌汁とお漬物が出てきた。その後熱々の揚げたてのとんかつがカウンターの向こう側から供された。

わたしの入ったすぐ後に女性が一人で入店されて、わたしの席1つ空けて同じようにカウンターに座らされた。「この定食は○○にできますか?」などと質問していたので、常連さんではなさそう。こういう会話のラリーが数回の後、この女性もわたしと同じものをオーダーされた。

で、その時、彼女の前に届けられたご飯の器がどんぶりで、大盛りであった。

わたしは普通のお茶碗であった。店内を見渡すと、男性はどんぶり、女性はお茶碗でご飯が供されていた。なるほど、男性はご飯大盛りなのね~と思ったのだけど、彼女はご飯を多めにしてくれとは言っていなかった。ただ、ミックスフライ定食の海老は牡蛎に替えてもらえるかどうかとか、そういう話しかしていなかった。お店の人は「替えられないですねえ」「ランチタイムはアラカルトができないんです」と答えていた。

なのに、なぜ、ご飯大盛り?

洗いあがったお茶碗が足りなくてどんぶりを使ったのかもしれないと思いながら、そっと読んでいた本から目を話して隣のその女性を見たら、彼女は、なんと、すっごーく太っていたのである。

おお!!

これはお店側の気の利かせ方なのか。そこのお店のどんぶりはとても大きく、ご飯の量、すさまじい。わたしはおかずの方が好きで白いご飯はそれほど好きではないので、わたしがこのサービスをされたら「やめてよねえ。もったいないよ、絶対食べきれない!」なのだけど、ご飯好きにはうれしいサービスかも。

デブ=よく食う、女性=だいたいご飯を残す、そういうありがちな話からこんなサービスになったのかもしれないけど、最近は個を大事にしなきゃいけないらしくって、画一的なサービスで怒り狂う輩が必ず登場する。サービスなんてもう、この世からなくさないと差別!差別!イジメだ!嫌がらせだ!法的措置を!!ということになるのだろうな。あのお店、今はどうしているのだろう。もしかしてSNSで誹謗中傷の嵐で、閉店に追い込まれていないかしら。

たまたまお茶碗が足りなかったからだよーと言いたいのだが、実はそうではない。わたしが入店した時、「はい、女性一名~」と厨房の向こうに声をかけるとお茶碗のご飯が出てきた。彼女が入店した時には「どんぶり一名」と言っていたのをわたしは聞き逃していない。最初からそういうことだったらしくて、そしてその後の会話からその女性が常連客ではないので、お店側が「この方はいつも大盛り希望だから」と思ったのでもなさそう。おそらく、「あ、デブ来た=ご飯大盛り!」という心遣いに他ならない。この女性は何の疑問もなくどんぶり飯を召し上がっていらっしゃったが、わたしは面白くて自分のとんかつに集中できなくなっていた。

わたしの方が先に食べ終わり彼女の後ろを通ってお会計に行くとき、そっと目を向けると、果たして彼女はきれいにどんぶりのご飯を召し上がっていらっしゃった。良かった良かった、本当に素晴らしい気遣い、日本の心、お・も・て・な・し、と感涙にむせび、涙でおつりが見えないよと店を後にした。

お店側の気遣い、だいたいは間違ってないと思う。