いつかわかる、わかったところで意味はない

うちの近所のスーパーでレジのお姉様方に、一人、ずるいババアがいる。

一人だけみんなよりうんとお姉さんで、60近いのではないだろうか。だからしんどさも若い子とは違うかもしれないし、あるいは知恵がついてずる賢くなっているのかもしれないが、ずらーっと一列に並んでいるお客をさっさとさばかないで、ちょっとズルして休み休み?さぼりつつやっている。無駄にお客に話しかけて、あーだこーだ言って、さっさと「お次のお客さまー!」とやらないで、ほんの少しグズグズしているのだ。あれは絶対わざとだ。

面白いからわたしは列に並びながらずっと観察している。すると同僚の他のレジのお姉さんが、「もう!あの人またやってる!ズルしてる!!」とイラっとした顔で、「次もあたし?あたしにやれっていうの?」と不満げに次のお客を呼ばないでズルおばさんをじっと見ていたりする。

怒っているよ!おおお!怒ってる!!と見ているが、30歳ぐらいに見えるその若いお姉さんは、ぷりぷりしながらも「次のお客様!」と諦めて呼び込む。良い人だな、真面目な人なんだなって思う。でもお姉さん、きっと気づく、あなたも60歳近くになったら、いや、そんな年になる前に、40過ぎたころ、「あれ?あたしってこんなによれよれでしたっけ?なんかめっちゃしんどいんですけど?」と思うようになるよ。ちょっとズルして、お客さんとおしゃべりしてダラダラして次々とお客をさばかなくなる気持ちが、ほんの少し理解できるようになるのだ。今だって、お姉さんもしんどかったら、ちょっとサボったらいいねん。でもお客としゃべって間を稼ぐ方がめんどくさいわ!しゃべりたないわ!と思って次のお客さんをさばいちゃうんでしょ。わかるわ。わたしもババアだけど、しゃべるより作業の方が好きよ。でも、そうじゃない人もいるのよ。いろんな人がいるから社会が成り立っているのよ。だから許すというか、見ないふりしてあげてよ。意外にこのババアの無駄なおしゃべりが、人を救っているかもしれないのよ?わたしは話しかけられるのがイヤだから、あのババアに当たらないように逃げているけども。

とかなんとか考えていても、このババアの方が時給が上だったらやっぱりちょっと腹が立つのかもしれない。でもそういう余計なことをは考えず、「ババアはしょうがねえな」と生温かい目で見守ってほしい。自分も長くいれば時給も上がるし、何となく偉そうにさぼれるようになるんじゃね?と夢見るしかない。そんなもんだ、世の中は。あるいはもっと自分の能力を高く買ってくれるところに行けばいい。ちょっとした時間、ぱっと働いてさっと帰れる、あとくされのない仕事が良くて、家の状況や子供の事とかを考慮すると、ここは地理的にも時間的にも丁度いいのよねーと思うなら、それで満足すべきで、他人と比べちゃいかんよ。高く能力を買ってくれる仕事は、ぱっと働いてさっと帰るだけでは済まされない。もっとこうしろ、もっと能力を上げろ、もっと努力しろ、こんな知識もつけろと、どんどん課してくる面倒なことが多い。ウエイトレスさんとかレジの人の仕事の良さは、職場から離れたら仕事がついてこないところ。そこが最高!だから子育て中の主婦とか、家のことがいろいろある人にはいい仕事なんだから、あなたもそう思って選んだんでしょ?

なんて勝手な妄想話を脳内で繰り広げながら、今日もぼさーっとレジを待つ。またババアがきゃっきゃとお客と話をして、全然次のお客を呼ばない。その間に、別のレジのお姉さんは一組さばいて次を呼んで、その人も終了させている。ババア、ちょっとなめ過ぎじゃね?今日は店長が休みの日か?なんて思いながら、わたしが同僚だったらどうするかなあ?そうだなあ、きっとしょうがないねえ、あの人は要領がいいねって笑って終わると思う。自分にはできない芸当だもん。伝統芸能か、それ、お前んちの家では脈々と受け継がれているんか?孫もそろそろお稽古を始める時期か?お前はスーパーのレジ界の成田屋か!と心の中でツッコミを入れて、すっと別のお姉さんのレジに行く。